Role Model Interview vol.44 June Miyachi
Women in Technology Japan(WITJ)は、テクノロジー分野におけるジェンダーギャップの解消と、日本社会におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進をミッションとする団体です。私たちは、あらゆる業界で活躍する女性たちにインスピレーションを与え、つながる場を提供し、エンパワーすることを目指しています。
このRole Model Interviewでは、業界を越えて周囲に影響を与える様々なリーダーたちにを毎月ピックアップしています。本インタビューを通して皆さまがインスパイアされ、勇気を持って挑戦し続けられることを願っています。
今回登場するのは、カルティエ ジャパンのプレジデント&CEO 宮地純氏。金融からラグジュアリーへキャリアをシフトし、新しい価値創造と女性のエンパワーメントに挑むリーダー。その軌跡とリーダーシップの哲学、彼女を形づくるストーリーとは?
Q1. 自己紹介をお願いします。
初めまして。宮地純と申します。幼い頃よりドイツ、フランス、イギリス、ドイツ、スウェーデンをはじめとするヨーロッパ諸国と日本を行き来し、国際的な環境で育ちました。大学卒業後は投資銀行に入社し、その後フランスへ渡って INSEAD(欧州経営大学院)にて MBA を取得しました。
MBA 修了後は、香港を経て日本に帰国。MHD モエ ヘネシー ディアジオに入社し、ラグジュアリー業界へキャリアの軸足を移しました。ワイン&スピリッツ、ファッションなど複数のカテゴリーで経験を重ねた後、2017 年にリシュモングループ(現:リシュモンジャパン合同会社)へ。カルティエのマーケティング&コミュニケーション ディレクターを経て、2020 年より現職を務めております。
Q2. 金融からラグジュアリー業界へ。異色のキャリアをお持ちですが、ファーストキャリアで金融業界を選んだ理由を教えてください。
幼い頃から“ものづくり”に関心があり、学生時代にはメーカーでインターンシップを経験しました。その中で学んだのは、良い製品を生み出すためには技術力だけでなく、「資金」や「お金の流れ」を理解することが不可欠だということです。
数字を読み解く力やファイナンスの知識を深め、ものづくりを支える基盤となるビジネススキルを身につけたい――そう考え、まずは金融の世界で経験を積むことを選びました。
Q3. これまでのキャリアの中で最も大きな転機はどんな瞬間でしたか?
やはり金融からラグジュアリー業界に足を踏み入れたときですね。
この業界には、製品づくりに対する明確な哲学や美意識が息づいており、付加価値の創造に徹底的に向き合う姿勢があります。そこに、私が大切にしてきた「ものづくり」という軸が最も深く結びつくと感じました。
また、より広いオーディエンスにメゾンの世界観を届けられる点にも魅力を感じました。お客様に直接価値を伝え、体験として提供する――そのプロセスに大きなやりがいがあります。
Q4. 宮地さんがリーダーとして大切にしている価値観や信念を教えてください。
私が大切にしているのは、「機能対等」という考え方です。社長であっても社員であっても、それぞれに固有の役割があり、その役割を果たすという点では全員が対等だと捉えています。
役職に関わらず、互いの役割を尊重し、フラットに協働することで、組織はより健全に、そして大きく成長していきます。こうした姿勢は、強いチームをつくるうえで欠かせない価値観だと考えています。
Q5. これまでのキャリアで印象に残っている「失敗」や「学び」があれば教えてください。
私自身、肩書に強くこだわっているわけではありませんが、世の中の多くの人にとって「社長は社長」であり、その立場を通して私を見るという事実を、就任当初は十分に理解しきれていなかったと思います。その経験を通じて、立場にある人間は“その一瞬の振る舞い”によって周囲の認識を大きく左右してしまうのだと痛感しました。
以来、日々の小さな言動の積み重ねが相手の認識を形づくることを強く意識するようになりました。自分らしさとプロフェッショナリズムのバランスを取りながら振る舞うこと――それが信頼につながると考えています。
Q6. 女性リーダーが活躍しやすい世の中になるためにはどのようなことが必要だと思いますか?
私は、3つの要素が特に重要だと考えています。
1つ目は “Awareness(認知・気づき)” です。
社会全体の意識が高まらない限り、構造的な課題は前に進みません。カルティエがドバイ万博に続出展大阪・関西万博でウーマンズ パビリオンを出展した理由も、まずは「気づくこと」からすべてが始まると考えたからです。
私自身も、課題に気づいて初めて「スイッチ」が入り、日本の現状や背景を自分ごととして捉えられるようになりました。Seeing is believing——無意識が意識に変わる瞬間が、変化の第一歩だと思います。
2つ目は “Leadership Commitment(リーダーのコミットメント)” です。
経営層やリーダーが明確にこのテーマにコミットし、継続的にメッセージを発信し続けることが、組織全体の変化を加速させます。トップが本気で取り組む姿勢を示すことは、非常に大きな推進力になります。
3つ目は “Community(コミュニティ)” の存在です。
これは私自身の経験からでもあるのですが、「同じ課題を抱えているのは自分だけではない」と実感できること、そして、同じ思いや経験を共有できる仲間とつながることは、女性が前に進むうえで大きな支えになると信じています。
カルティエ入社後に受講した女性エグゼクティブ向けトレーニングでは、自分だけが抱えていると思っていた課題を周囲のエグゼクティブたちと共有する機会がありました。そこで初めて「同じ悩みを持つ人がこんなにいるのだ」と気づき、大きな安心感を得たことを今でも鮮明に覚えています。
コミュニティが持つ力——孤独ではないと実感できること、互いに支え合える環境の重要性を強く感じました。
Q7. 3つの要素、とても共感します!先ほど関西万博でのウーマンズ パビリオン出店のお話が出ましたが、カルティエが女性のエンパワーメントの活動に力を入れている理由を教えてください。
私たちが女性のエンパワーメントに注力する背景には、カルティエのメゾンに受け継がれるDNAがあります。
カルティエは創業から170年以上の歴史がありますが、1933年には初めて女性のクリエイティブディレクターが就任しました。当時としては極めて稀な存在でしたが、彼女は非常に強くしなやかな女性で、パンテール(ヒョウ)を象徴的なモチーフとして多くの作品を生み出しました。その力強い感性と独立した姿勢から “Panthère Woman” と呼ばれていたほどです。
彼女の体現していた「自由」や「自立」といった価値観は、今もメゾンの中核に息づいています。カルティエにとって、女性が力を発揮できる社会を後押しすることは、ブランドのDNAに根ざした自然な使命だと感じています。
他にも、カルティエは女性エンパワーメントに限らず、幅広い社会的コミットメントを継続しています。
その象徴が、2006年にスタートしたCartier Women’s Initiativeです。国や分野を問わず社会にインパクトを与える女性起業家を支援し、社会課題の解決に挑む女性たちを後押しするプログラムとして、長年にわたり多くのインパクトを生み出してきました。
また、Art&Cultureの分野でも積極的に活動しています。例えば今年、パリにはカルティエ現代美術財団の新しい美術館がオープンしました。アートやカルチャーを通じて社会と関わり、創造性を広げていく姿勢は、これからも変わらない重要な柱だと捉えています。
Q8. エンパワーメント活動を続けることが自然とブランドの使命を全うすることにつながっているんですね!関西万博でのインパクトはいかがでしたか?
今回の展示のコンセプトは、「ともに生き、ともに輝く未来へ」。現代に生きる女性の物語を追体験するイマーシブ型の展示でした。年代や国籍を問わず、非常に多様なオーディエンスの方々にご来場いただきました。
展示やメッセージに心を動かされ、涙を流される方も多く、年齢や文化背景を超えて想いが届くのだと、現場で強く実感することができました。これは私たちにとって大きなモチベーションとなりました。
また、半年間にわたり毎日のように大いなる地球・ビジネスとテクノロジー・教育と政策・芸術と文化・フィランソロピー・役割とアイデンティティなど6つのテーマを取り上げたトークセッションを行い、合計200以上のプログラムを実施しました。さまざまな団体、政府機関、企業、各国代表の方々にご参加いただき、議論の場を創出しました。
こうした取り組みを通じて、これまで女性活躍やジェンダーのテーマを意識してこなかった方々にも、新たな気づきや考えるきっかけを提供できたと感じています。
Q9. 素晴らしい取り組みですね!宮地さんはお子様もいて多忙な日々を送っていると思いますが、プライベートと仕事のバランスはどのようにとっていますか?
プライベートと仕事のバランスは、日々完璧に取るのは難しいものだと思っています。
平日は仕事に集中せざるを得ない日もありますが、週末は家族との時間をしっかり確保するなど、1週間・1ヶ月・半年・1年といった長めのタイムスパンで全体としてバランスが取れているかを意識するようにしています。
特に大切にしているのは、限られた時間の中で「自分は何を優先したいのか」という価値観を明確にしておくことです。優先順位はライフステージや仕事のフェーズによって変わることもありますが、自分で理解し、家族や周囲にも共有しておくことで、無理なくバランスを保てると感じています。
最近、リフレッシュに家の庭の“雑草抜き”をすることが多いんです。自然の中に出かけるというよりも、庭で土に触れながら雑草を抜く時間は、私にとってちょっとした瞑想のような効果があります。無心になれるうえ、終わったあとに景色がすっきり整っているのを見ると、気持ちも自然と整う気がします。
Q10. とても参考になります!今後の目標や、実現したいビジョンを教えてください。
会社として、そして自分自身のビジョンとして大切にしているのは、「新しい価値を生み出し続けること」です。
万博での取り組みのように、前例のないユニークな挑戦はハードルが高いですが、決められた道を歩くだけでは、同じ景色しか見えません。だからこそ、自ら山を作ったり、登るルートを切り拓いたりして、新しい景色を見に行く――そんな挑戦をこれからも続けていきたいと考えています。
Q11. 最後に、読者にメッセージをお願いします!
“Believe in yourself. You’re not alone!”
自分を信じること、そして同じ悩みを抱える仲間が周りにいることを忘れずに進んでほしいと思います。
WITJは、このRole Model Storyを通して皆様がインスパイアされ、勇気を持って自分が本当に輝き、理想とする職種や業界に転職したり、就職したりできるような世の中になることを望んでいます。
WITJとのコラボレーションやイベントのスポンサーにご興味のある方は、お問い合わせフォームにご記入いただくか、info@womenintech.jp まで直接ご連絡ください。

