Role Model Interview vol.42 Violet Pacileo
Women in Technology Japan(WITJ)は、テクノロジー分野におけるジェンダーギャップの解消と、日本社会におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進をミッションとする団体です。私たちは、あらゆる業界で活躍する女性たちにインスピレーションを与え、つながる場を提供し、エンパワーすることを目指しています。
このRole Model Interviewでは、業界を越えて周囲に影響を与える様々なリーダーたちにを毎月ピックアップしています。本インタビューを通して皆さまがインスパイアされ、勇気を持って挑戦し続けられることを願っています。今回登場するのは、高知県大豊町でクロスフィットジムを経営するパチレオ・バイオレット氏。
日英米でのキャリアを築き、日本株式市場で10年以上の経験を経て、コロナをきっかけに家族で母の故郷に移住。そんな彼女が地元で見つけた新たな挑戦、その背景にあるストーリーとは?
—「人生とは、リスクを取り、型にはまらず、自分に正直に生きること。どんな道を選んでも、自分なりの幸せを見出せれば、それが最高の生き方」
Q1. 経歴を含めた自己紹介をお願いします。
はじめまして、バイオレットです。中学校から大学までイギリスで過ごし、卒業後に日本へ帰国。2006年新卒で日経の証券会社へ入社し、日本株式市場で+10年間(合間にロサンゼルスのスタートアップで3年)、機関投資家のために多額の資金を運用し、大手上場企業とグローバル投資家をつなげてきました。
コロナ禍をきっかけに家族で母の故郷・高知に移住しました。当初は予定にない移住でしたが、生活する中で新しい挑戦を通して地域活性化に興味を持ち、事業計画を策定。経済産業省の事業再構築補助金にも採択され、無事2022年にクロスフィットジムを立ち上げました。現在は高知を拠点に新たな挑戦を進めています。
Q2. ファーストキャリアで金融業界を選んだ理由を教えてください。
私は極度の貧困と裕福さという両極端の環境を経験して育ちました。16歳でイギリスのボーディングスクールを離れることになった後、地元の公立の高校に進学しました。在学中に一度も学食を購入せず、友人たちがお昼を食べている間は「タバコを吸ってくる」とクールに装って席を外し、散歩をしてやり過ごすこともありました。時には、学校を休むこともありました。それは必ずしも自分の意志ではなく、バス代すら払えないことが理由でした。その後、公営住宅に住むことになりましたが、人生を立て直し、大学を卒業することができました。
そうした経験を通じて「生活するには自分で稼ぐ力を身につけることが大切」という想いから、ファーストキャリアでは金融知識を身につけるために金融業界を選びました。
Q3. そんな過去があったことに驚きです!金融の世界から経営者へ。その道のりを教えてください。
2018年から香港に本社があるヘッジファンドの日本市場調査担当として、リモートワークをしながら、母の故郷である高知県大豊町と東京を行き来していました。コロナ禍で仕事を失ったことをきっかけに、東京の狭い住環境に戻るよりも、母や家族と大自然の中で過ごせる高知県大豊町に腰を据えた方が良いと判断し、家族5人で移住しました。
3人の子どもと一家の生活を支える必要があり、業績予想づくりの経験を活かしながら新しい可能性を模索。自宅の車庫でトレーニングをしていたところ、近所から「教えてほしい」という声が集まり、クロスフィット事業のアイデアが芽生えました。
銀行に相談すると経済産業省の事業再構築補助金制度を勧められ、アイディア立案から2年を経て無事採択され、補助金を獲得。母の健康維持や、長年家庭を支えてきた夫と共に取り組める仕事、そしてスポーツ好きな子どもたちにも関われるフィールドとして、家族みんなで関わることができるクロスフィットジムの立ち上げに至りました。
Q4. 新しい街で事業を一からスタートされていて尊敬します!やりがいはどんなところにありますか?
ボランティアやワーキングホリデーで来ているスタッフもいて、国際色豊かな環境で楽しく運営できているのもやりがいのひとつです。自分でつくった場に人が集まり、そこから地域の方達を巻き込んで、新しいコミュニティが広がっていくのを見ると、「やってよかった」と心から思います。
人を雇うことは責任も大きく、日々学びの連続ですが、ようやく仲間が集まってきてくれて、これから規模を大きくしていける段階にあるので楽しみです。大変なことも多いですが、その分「形になっていく」喜びは大きいですね。
Q5. 移住する前と後で、どのようにライフスタイルや価値観が変わりましたか?
子どもたちを巻き込むことができるのも大きな変化です。スポーツや地域活動を通して家族全員で学びながら挑戦できる環境が整っています。
今大切にしているのは、「経験から学ぶ」こと。間違えてもいいから、どんどんトライアンドエラーを重ねる。例えばマーケティングも、都会のようにオンラインだけでは通用しません。山の中だからこそ「どうすれば人が来てくれるか」を一つひとつ自分たちで考えて試し、良かった方法を繰り返していく。その積み重ねが成果につながるし、何よりそれがすごく楽しいんです。
Q6. 経験といえば、移住されてからNHKのレポーターに未経験で挑戦するなど多方面で活躍されていますが、その経緯は?
コロナ禍で高知に移住したちょうどその頃、NHKがバイリンガルアナウンサーを探していました。東京から人を呼べない状況だったこともあり、偶然にも私に声がかかり、町おこし番組の取材とアナウンサーを任されることになったんです。全くの未経験でしたが、挑戦することにしました。
挑戦する中で、NHKのディレクターが私の町おこしへの関心を理解してくださり、限界集落の取り組みを取材・企画する機会を多くいただきました。地元の方々と直接お話しするなかで、それまで見えていなかった地域の課題が浮かび上がってきました。株式の仕事をしていた頃は日本経済をマクロ的に見ていましたが、実際に暮らす人々の目線から「日本を良くするには何を変えればいいのか」を考えるようになったのは、大きな学びでした。
私が今住んでいる大豊町は総務省による全国市区町村所得(年収)ランキングで「日本で3番目に貧しい街」に選ばれています。一方で、以前住んでいた東京都港区は日本で最も豊かな街。その大きなギャップを体感したことも、暮らしのリアルを深く理解するきっかけになりました。
取材で得た知見を地元に持ち帰り、地元の方向けのプレゼンや大豊町役場へのフィードバックを通して地域活性に少しずつ貢献できたのも大きな経験です。偶然から始まった仕事でしたが、それまでのキャリアや興味と自然につながっていったように感じています。
Q7. アンコンシャスバイアスの認定トレーナーの資格もお持ちだと聞きましたが、資格取得のきっかけ、活動についても教えてください。
最初にアンコンシャスバイアスという概念に触れたのは、金融機関で働いていた時でした。企業調査の際、(当時は「ESG」という用語はまだ一般的に使われていませんでしたが)今で言うESGへの取り組みをチェックする項目があり、「取締役のダイバシティー比率」「マネージャーレベルでの比率はどうか」その重要性を実感したのがきっかけです。
個人的には、小さい頃からハーフとして2つのアイデンティティを持って育ったこともあり、自然と多様性やバイアスの問題に関心を持っていました。小学生の頃には国連の人権作文コンテストに応募して2位をいただいた経験もあって、社会課題に対する意識は早い段階から芽生えていたと思います。
現在は、積極的に専業で活動しているわけではありませんが、声をかけていただいた際には、市町村のスピーカーとして登壇したり、学校や高知大学、男女共同参画関連の場でお話しすることがあります。
一人一人の可能性を引き出すのは、失敗してもやり直せる安全に挑戦できる環境、「やってみていいんだ」と思える空気。小さな成功体験を積むこと
Q8. 自らの経験が原動力となって、それが学びとお仕事にもつながったんですね!一人でも多くの女性が自分自身の可能性に気づくには、どんなことが大切だと思いますか?
まずは「自分を理解すること」が大切だと思います。私たちは誰しも無意識のうちにバイアスを持っていて、自分自身にもあるんだと気づくことが第一歩です。
例えば、女性自身が自分に制限をかけてしまうと、せっかく素晴らしい能力があってもリーダーとして力を発揮できません。自信を持ってリーダーシップを発揮できるメンタルも必要です。また、組織や社会全体で後押しやサポートできる環境をつくることが、次の世代のリーダーを増やすために重要だと考えています。失敗してもやり直せる安全に挑戦できる環境、「やってみていいんだ」と思える空気。小さな成功体験を積むことで「自分にもできる」という感覚の強まり。周囲の期待や固定観念に縛られず自分への思い込みの解除、などが一人一人の可能性を引き出します。
ただし、やはり人間は、小さな頃から積み重ねてきた経験によって大人になります。だからこそ、次世代のリーダーとなる今の子どもたちが、性別に対するバイアスのない環境で育ち、できるだけ幅広い経験を積むことが大切だと思います。そうすることで、脳に「偏り」として蓄積されるものを最小限にできるのではないでしょうか。大人を変えることは容易ではありませんが、子どもたちはまだ頭が柔らかく、思い込みも固まっていません。その柔軟な時期にこそ、多様な視点や経験を与えてあげることが重要だと考えます。
Q9. キャリアと子育ての両立の秘訣は?
子どもができると、いわゆる「ワークライフバランス」という言葉は存在しないと思っています(笑)
子どもが最優先になりますし、親になると自分の時間はなかなか持てません。でも、その中でも自分がリフレッシュできる時間をどう作るかがとても大切だと感じています。アウトソースや家族に頼れる部分はしっかり頼って、その時間を確保すること。それはお金では買えないほど大切なものですし、自分が倒れないためにも必要なんです。親が笑顔でいることが、子どもの幸せのためにも大切だと思っています。子供達とあと何回夏休みを過ごすか考えた時に、時間を大切にしないといけないと改めて考えさせられます。
— あえて出る杭になれ。
Q10. Women in Technology Japanの皆さまへのメッセージをどうぞ!
人生とは、リスクを取り、型にはまらず、自分に正直に生きること。どんな道を選んでも、自分なりの幸せを見出せれば、それが最高の生き方だと思っています。
「出る杭は打たれる」ではなく、あえて出る杭になれ。
嫌われることを恐れるな。
失敗から学べ。
集団同調バイアスに流されるな。
— 力強いメッセージをありがとうございます!失敗を恐れず挑戦する心を常に忘れないで突き進んでいきたいですね!
WITJは、このRole Model Storyを通して皆様がインスパイアされ、勇気を持って自分が本当に輝き、理想とする職種や業界に転職したり、就職したりできるような世の中になることを望んでいます。
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