クリスティーン・エドマン

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Women in Technology Japan | 【Role Model Interview】Christine Edman

Role Model Interview vol.40 クリスティーン・エドマン

Women in Technology Japan(WITJ)は、テクノロジー分野におけるジェンダーギャップの解消と、日本社会におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進をミッションとする団体です。私たちは、あらゆる業界で活躍する女性たちにインスピレーションを与え、つながる場を提供し、エンパワーすることを目指しています。

このRole Model Interviewでは、業界を越えて周囲に影響を与える様々なリーダーたちにを毎月ピックアップしています。本インタビューを通して皆さまがインスパイアされ、勇気を持って挑戦し続けられることを願っています。

今回登場するのは、H&Mジャパン元社長であり、現セブン&アイ・ホールディングス社外取締役のクリスティーン・エドマン氏です。「たった一つの挑戦で、すべてが変わった」と語る彼女。移住や大胆なキャリアチェンジの裏にあったストーリーとは?そして、インクルーシブなリーダーシップとエンパワーメントへの強い想いの源とは?


東京出身で、マテル・ジャパンでアシスタント・ブランド・マネージャーとしてキャリアをスタートしました。その後、人気クッキーブランド「アントステラ」での本社勤務を経て、スウェーデン出身の夫と出会ったことをきっかけに、彼の博士課程と私自身のMBA取得のため、スウェーデンに移住しました。

この決断は私のキャリアにおいて大きな転機となりました。というのも、スウェーデンで初めてH&Mに出会い、そのビジネスモデルやその価値観に強く惹かれたからです。MBA取得後すぐとあるご縁でH&Mに入社し、アジア各地での勤務を経て、最終的には2008年に日本初のフラッグシップストア立ち上げに携わりました。

2017年にはファストファッションの世界からラグジュアリーブランドの世界へと転身し、LVMHグループのジバンシィ・ジャパンにて代表取締役社長を務めました。ここではストーリーテリング、クラフツマンシップ、ブランドの伝統の重みを学び、量を追う戦略から価値を重視する戦略への転換という、キャリアにおける重要なステップとなった転職でした。

そしてパンデミックにより、小売業界におけるデジタルの役割が「数あるチャネルのひとつ」から「中心的チャネル」へと大きく変化したタイミングで、ファッション×テクノロジーの先端を行くZOZO株式会社に執行役員として参画し、小売の未来におけるデジタルイノベーションに携わりました。

2025年5月にはセブン&アイ・ホールディングスの社外取締役に就任し、より広い業界レベルでのビジネストランスフォーメーションに取り組む機会をいただいています。

ゼロからクッキー事業(アントステラ株式会社)を築き上げた父のもと、起業家精神あふれる家庭で育ちました。そのため、幼い頃からビジネスの世界に興味がありました。父は私にとって常にロールモデルであり、メンターでもあり、彼のリスクを恐れない姿勢、粘り強さ、そして自分の事業に対する揺るぎない責任感と目的意識から、多くのことを学びました。

特に小売業において最も大切な教訓、「お客様を常に最優先に考えること」と、「信頼し合い、支え合い、共に成長するチーム(家族)のような関係を築くこと」を教えられました。会社のモットーである「Warm Heart Communication(心あたたまるコミュニケーション)」のもと、父は全国の店舗を回り、お客様やスタッフと直接対話し、耳を傾け、励まし、ブランドを中心としたコミュニティづくりに力を注いでいた姿が、今でも強く印象に残っています。

こうした幼少期の経験が、現在の私のリーダーシップの礎となっています。自分の情熱を仕事に変えること—それが成功への鍵のひとつだと信じています。

元はと言えば、夫が博士課程、私がMBAを取得するための留学でした。当時私は、そのビジネススクールの第1期生として卒業し、全卒業生に新聞社のインタビューがありました。記者から卒業後の展望を聞かれ、私は思い切って「H&Mを日本で展開したい」と答えました。翌日、そのインタビューは経済新聞の裏面に大きく掲載され、「H&Mを日本へ」という見出しが躍りました。

びっくりしたのは、その記事がH&Mの会長兼CEOの目に留まり、そこから面接の機会へとつながったことです。

私がリーダーシップの中で学んだ最も大きな教訓のひとつは、「自分の夢を声に出して伝える勇気」が未来を切り開く第一歩になる、ということです。

実はそれまで何度かH&Mにアプローチしていたものの、なかなか面接の機会を得ることができずにいました。けれどもその新聞記事をきっかけに、先方から連絡をいただき、面会する運びとなりました。

まさにその瞬間が、私にとっての奇跡の転機でした。「思い切って挑戦したことで、すべてが変わった」と心から思っています。

夢を叶えるうえで最も大切な第一歩は、「夢を持つこと」そのものだと思います。私にとって夢は、ゴールラインや道標のような存在。そこに向かうことで、自分の進むべき方向と目的が明確になります。

行き先が定まれば、あとは逆算して考えるだけ。「そのためには何をするべきか?」「どんなスキルや準備が必要か?」まるで長距離レースの準備のように、コースを見極め、必要な栄養や装備を整えながら、目的意識をもってトレーニングを重ねていく。そして、自分がゴールする姿をありありとイメージすることが、途中に立ちはだかる困難を乗り越える原動力となります。

H&Mの立ち上げは、まさにそんな私の「一生に一度の夢」でした。情熱あふれる若いリーダーたちとともに、60店舗までスケールを拡大できたことは、言葉では言い尽くせないほど刺激的で、同時に混乱の連続でもありました。CEOとしての責任と、幼い子どもを育てる母としての役割を両立させながらの毎日は、決して簡単ではありませんでした。

それでも、ひとつの大きなH&Mファミリーとして、何もないところから新しいものを一緒につくり上げていった経験は、私のキャリアの中でも最もいい経験の一つでした。

キャリアの初期の段階で、「ワークライフバランス」という考え方は手放し、その代わりに「ワークライフインテグレーション(統合)」という考え方を受け入れました。バランスという言葉には「常に均等であること」が前提としてありますが、現実的ではありません。一方、インテグレーションは日々の波や流れを前提にしています。ある日は母親としての役割がほとんどを占め、別の日はリーダーとして全力を注ぐ。それは失敗ではなく、意識的な選択であり、現実を見据えた戦略だと思っています。

私にとっての転機は、「成功とは、自分をきれいに二分することではなく、その瞬間ごとに何が最も大切かを見極め、柔軟かつ意図的に動くこと」だと気づいた時でした。そして同時に、「完璧な母親」と「完璧なリーダー」を100%同時に成し遂げるという非現実的な理想を捨てることも重要でした。

この“ワークライフインテグレーション”を実現するために欠かせない3つの要素があります:

  1. ビジョンの明確化
     自分が目指すインテグレーションのかたちについて、強い意思とビジョンを持つこと。それを「実現できる」と信じるマインドセットが、行動を推進するエンジンになります。
  2. サポート体制の構築
     「一人ではできない」と早めに認識することが大切です。支えてくれるネットワークやパートナーに頼ることは、弱さではなく最も賢明な選択です。
  3. 計画性
     インテグレーションには設計が必要です。カレンダー管理やエネルギー配分など、計画的に日々を設計することで、2つの役割をうまく両立させることができると信じています。

キャリア初期に大きなリーダーシップポジションを任されたときに重要だったのは、「リーダーはすべてに対して答えを持つ必要はない」という気づきでした。むしろ、チーム全体で成果を上げるために、一人ひとりが力を発揮できる環境をつくることこそが、リーダーの役割だと実感しました。

最初の頃の私は、休む間もなく働き続け、ドアを閉めっぱなしのオフィスで、会議に次ぐ会議をこなし、自分だけで全責任を背負っていました。結果を出さなければというプレッシャーは、常に重くのしかかっていたのです。

そんなある日、グローバルの人事責任者が私のオフィスを訪れ、こう言いました。「君は全く逆のやり方をしている。リーダーシップとは上から指示を出して実行させることじゃない。ビジョンを示し、方向性を定め、チームが自らの道を見つけて成果を出せるように導くことなんだ——時間はかかっても、それが本質なんだよ」と。

その言葉は、私のリーダーシップ観を大きく変える転機となりました。自分一人で引っ張るのではなく、「人を通じてリードする」力を早く身につけることが、持続可能で効果的なリーダーシップにつながるのだと。

私には「この人が唯一のロールモデル」と言える存在がいるわけではありません。むしろ、これまでのキャリアのなかで、さまざまな人たちからインスピレーションを受けてきました。

あるとき、誰かに「自分だけの”取締役会”を持つといいよ」と言われたことがあり、その言葉がとても心に残っています。企業に取締役会があるように、人生にもアドバイスや視点、サポートをくれる“個人的なメンターの集まり”があるといい——そんな考え方です。

私自身も、その時々の課題やフェーズに応じて、異なる人たちに相談しています。そして、自分の成長とともに、その取締役会メンバーも少しずつ変化してきました。

私にとって大切なのは、完璧なロールモデルをひとり持つことではなく、自分を成長させてくれる信頼できるサークルを築くことです。

女性のエンパワーメントには、制度や仕組みといったサポーティブな環境整備が不可欠ですが、日本において女性のリーダーシップを進めるうえで最大の障壁となっているのは、実は「個人のマインドセット」にあると感じています。

根深い文化的な価値観や、ロールモデルの不足、そして「リーダーシップは個人の犠牲を伴うもの」という固定観念が、女性たちの昇進意欲を削いでいます。多くの調査でも、女性が昇進を積極的に目指さない理由は能力の欠如ではなく、リスク回避傾向や自己肯定感の差、あるいは「成功=私生活の犠牲」という思い込みにあることが示されています。

本質的な変化には、女性たち自身がそのストーリーを変えていく必要があります。自らの志を明確に持ち、成長の機会を自ら掴みにいき、自分なりのリーダー像を再定義していく——そうしたマインドセットの変化が鍵です。

そしてこの強い意識が、制度的な支援と結びついたとき、持続可能な変革になると信じています。

まずは、3年から5年の計画を立ててみてください。完璧である必要はなく、状況に応じて変わっていっても構いません。大切なのは「ビジョン」を持つことです。そこから逆算して、「その目標のために今から何を始めるべきか?」を考えましょう。上司やメンターにオープンに話すことも重要です。例えば、「5年後にはこの国で暮らしたい、あるいはこの役職に就きたい。今何をすべきでしょうか?」といった具合に。こうした主体的な姿勢が鍵となります。

もちろん、企業や社会レベルで変わるべきことはたくさんありますが、私は個人のエンパワーメントに強く注目しています。最も即効性があり影響力の大きい変化は、自分たち一人ひとりから始まることが多いからです。どんな環境であれ、自分を信じ、声を上げ、本当に望むことに挑戦することを女性たちに励ましたいと思っています。

マルチカルチャーな環境で生まれ育った一人として、「日本と世界」、そして「世代を超えた女性リーダーたち」の架け橋になることです。自身の経験を活かし、日本企業が国境を越えて成長するサポートをしながら、日本文化や革新、価値観を世界に発信していきたいと思っています。

同時に、若い女性たちがリーダーシップの舞台に立つことを支援する責任を強く感じています。強力なサポートネットワークやメンタリングを通じて、新たなロールモデルとなる世代を育て、よりインクルーシブでダイナミックな日本の未来を築く一助になりたいと願っています。

変化は一朝一夕には起こりません。だからこそ、大きな夢を持ちつつ、小さな一歩から始めることが重要だと考えています。


このRole Model Storyを通して皆様がインスパイアされ、勇気を持って自分が本当に輝き、理想とする職種や業界に転職したり、就職したりできるような世の中になることを望んでいます。

WITJとのコラボレーションやイベントのスポンサーにご興味のある方は、お問い合わせフォームにご記入いただくか、info@womenintech.jp まで直接ご連絡ください。