Women in Technology Japanは、日本のテック業界におけるジェンダーギャップを解消し、ダイバーシティ&インクルージョンを推進することをミッションに掲げています。
このRole Model Interviewを通して皆様がインスパイアされ、勇気を持って自分が本当に輝き、理想とする職種や業界に転職したり、就職したりできるような世の中になること、そして一人でも多くの方々にてテック業界で働く可能性について知っていただきたいという思いで活動しています。
今回のインタビューでは、国際女性デーを記念して、外資系IT企業にてPartner Developent Managerを務める側、積極的に社内外のDEI活動に携わる、市川さんにインタビュー。「ライフイベントとキャリアは両立できる」— そう信じて、家族の病気を支えながら、時にシングルペアレントとして、キャリアを継続してきた市川さん。
様々な逆境を乗り越えてきた彼女が語る、家族とキャリアとの両立、DEIとの向き合い方とは?
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Q1. キャリアや経歴を含めた自己紹介をお願いします。
初めまして、市川史子と申します。外資系IT企業にて、パートナー企業のPDM(Partner Development Manager)として働いています。
最初にお伝えしたいのですが、私は上級管理職やマネージャ職ではなく、ただの一人の人間です。ロールモデルと皆さんに言えるような輝かしいキャリアではありません。
それであっても、私のような生き方・働き方が誰か一人の方にでも勇気や希望を持って頂けたり、参考になれば、と思いこのインタビューを受けさせていただきました。
大学卒業後は、日系の製造業からキャリアをスタートし、複数の外資系IT企業にてエンジニア、プロジェクトマネージャー、カスタマーサクセスマネージャーとして経験を積んできました。ライフイベントとキャリアの両立を軸とした働き方を心がけてきました。プライベートでは亡くなった娘も含め三児の母として家庭を大切にしながら、赤ワインや読書を楽しむこと、日本のラグビーチームを応援することが趣味です。
Q2. ファーストキャリアで日系の製造業を選んだ理由をお聞かせください。
就職活動を始めた当初は、第一志望として航空業界を目指していました。CA(客室乗務員)として働きたい一心で、他の業界には目を向けずにいたのですが、残念ながら英語の試験で不合格に。そんな中、視野を広げて他の業界にも目を向けたところ、FUJITSUの子会社にご縁があり、入社することになりました。
キャリアのスタートはパソコンの研修からでしたが、 同期の研修卒業試験では最下位で、「自分には向いていないのでは?」と悩むこともありました。それでも、生活のために必死に学び続けました(笑)。
結果的に、デジタル化・IT化の流れに乗り、時代に即したスキルを身につけることができ、良い方向へつながったと感じています。
Q3. キャリア形成で大切にしていることはありますか?
「キャリアは、階段状にあがっていくものではなく、ジャングルジムのようなものだ。」— 『Lean In』の著者、シェリル・サンドバーグの言葉です。
この言葉が示しているのは、キャリアの選択には常に優先順位があるということ。そして、その時々の状況に応じて、柔軟に選択をしていくことが大切だと私は考えています。
これまで、家族の健康問題のサポート、不妊治療、出産、娘の死など、自分の力だけではどうにもできない出来事を経験してきました。そのたびにこの言葉を思い出し、状況に応じて長期休業を取得したり、管理職への昇進を見送るなど、家族を優先する選択をしてきました。
こうした判断を重ねることで、キャリアを完全に中断することなく、無理のない形で積み上げてこられたのだと思います。
Q4. 家族への優先度が高い時期はどのようにして両立されていましたか?
「頼れるものには頼る!」――これに尽きます。
私は、貯金がゼロになってもシッターや家事代行などのアウトソーシングサービスを積極的に活用し、生産性を上げるためにリモート勤務を意識することで、仕事との両立を図ってきました。また、そもそも柔軟な働き方が可能な職場を選ぶことも大切にしてきました。
さらに、面接時に自身の制約や期待値を明確に伝えることも、両立のための重要なステップだと考えています。
例えば、転職活動をしていた際、子どもがまだ小さく、突然の体調不良で対応が必要になることも多い時期でした。そのため、あらかじめ企業側に「クライアントとのミーティングにはオンラインで対応可能」「アウトソーシングを活用して業務に支障を出さない」と自身の制約を伝え、仕事に穴をあけないことを約束しました。
こうした工夫を重ねることで、家族を最優先しながらもキャリアを継続することができたと感じています。
Q5. ライフイベントのキャリアは両立できるを実践されていてとても勇気づけられます!現在、積極的に社内外のDEI活動を支援されていますが、きっかけとなるエピソードはありますか?
幼い頃から母に経済的自立の大切さを教えられて育ちました。その影響もあり、結婚後も仕事を続けたいという思いは人一倍強かったのだと思います。
一方で、「多様性/DEI」という概念に初めて触れたのは、2社目のヒューレット・パッカードで受けたカルチャー研修でした。そこで学んだ「HP Way」の価値観を通じて、誰もが自分らしく生きられるインクルーシブな職場環境を作ることの大切さに深く感銘を受けました。
その後、娘が障害を持って生まれたこと、知人がALSという難病を発症したことをきっかけに、健康や「自分らしくあること」について考える機会が増えました。そうした経験から、DEI関連の支援活動やボランティアに積極的に関わるようになりました。
現在、仕事が100%だとすると、DEI活動の比率は約20%。トータルで業務量は120%ですが、社内のボランティア募集に手を挙げたり、バーチャルで支援活動に参加したりと、無理のない範囲で取り組んでいます。私にとってDEI活動は、単なる支援ではなく、常に学びを重ね、視野を広げる大切な時間になっています。
Q6. Women in Technology Japanと今回実施するクローズドの国際女性デーのイベント「Unlock Your Potential, Shine & Grow (Glow)」企画立案のきっかけは?
昨年の夏、イベントを弊社で開催し、DEIに関するセッションを実施したところ、日本のIT業界では、依然として女性の割合が少ない企業が多い中、登壇されたパートナー企業は、女性管理職比率が約40%と非常に高かったことが印象的でした。
「どのようにしてこの比率を実現しているのか?」――その問いをきっかけにディスカッションの機会が生まれ、私自身も強い関心を持ちました。
1人でできることは限られていますが、IT業界で働く当事者が集まり、ポジティブな形で現状を発信することで、日本のIT業界のDEI推進に少しでも貢献できるのではないかと考え、今回の合同イベントを企画しました。
🔹 イベントのレポートは、後日 Women in Technology Japan の公式ウェブサイトで公開予定です。ぜひお楽しみに!
Q7. 2030年までに、日本政府は企業の女性管理職の割合を30%にする目標を掲げていますが、女性リーダーを増やすために、私たちにできることは何だと思いますか?
女性リーダーの数はまだ限られているかもしれませんが、すでに活躍しているリーダーたちが、積極的に具体的な知見を共有することが、次世代のヒントになるのではないかと考えています。
成功の裏には必ず努力のストーリーがあります。だからこそ、単に「成功した結果」だけに焦点を当てるのではなく、うまくいかなかった時にどう努力したのか、チャレンジしてから結果を出すまでにどのように乗り越えたのかといったプロセスを共有することが、より多くの人の参考になるはずです。
その意味でも、今回のようなRole Model Interviewの機会は、多くの方に勇気を与えるきっかけになるのではないでしょうか。
Q8. 今、子育てとキャリアを両立しようとしている方に伝えたいことはありますか?
私自身、子どもが小さいうちは、キャリアのアクセルを踏みすぎず、「続けること」を最優先にして両立してきました。
そんな中、長男と次男がそれぞれ高校・中学校に進学したタイミングで、驚くほど突然、親離れが進みました。
それまでは、子どもが学校から帰宅してから眠りにつくまで、しっかり対話の時間を設けていましたが、子供がそれぞれ部活や友達付き合いが増えるにつれて、自然と時間や心の余裕が生まれるようになりました。そこで、「今ならキャリアにアクセルを踏める」と感じ、さらなるステップアップを目指し、社内公募に手を上、営業職に異動しました。
この経験から学んだのは、子育ては期間限定だということ。そして、子どもが親を必要とする時期が過ぎれば、またキャリアに集中することは十分可能だということです。
だからこそ、焦らず、その時々でバランスをとりながら進んでいけば大丈夫だと伝えたいです!
Q9. 失敗した時や落ち込んだ時は、どのように乗り越えていますか?
自己肯定感や自己効力感を高めるために、1日の終わりに振り返りの時間を持つことを習慣にしています。うまくいかなかったこと、できたことを整理し、セルフトークを通じて自分と対話するようにしています。
最近、同僚に教えてもらい実践しているのが、落ち込んだ自分に名前をつけて、心の中で会話する方法です。
例えば、「失敗した時の〇〇は一瞬のこと。本来の〇〇はもっとできるよね。」と、名前をつけることで自分を客観的に見つめ直せるようになり、気持ちの切り替えもスムーズになると感じています。
実際問題、どんなに落ち込んでも、過去には戻れない。大事なのは、「その失敗から何を学び、次にどう活かすか」。そして、ポジティブな未来を自分で作るために、上手くできたときはとことん自分を褒める! これを意識することで、前向きに進んでいけると信じています(笑)。